倒れた樹齢600年のご神木は圧巻 自然災害遺産や貴重な神像を所有する大阪・泉大津の歴史ある神社 【泉穴師神社】

倒れた樹齢600年のご神木は圧巻 自然災害遺産や貴重な神像を所有する大阪・泉大津の歴史ある神社 【泉穴師神社】

大阪・泉大津市の「泉穴師神社」は、白鳳元年(672年)の創建とされ、地域の有力な神社であったといわれている。夫婦の神「天忍穂耳尊(あめのおしほみみのみこと)」「栲幡千々姫命(たくはたちちひめのみこと)」が御祭神で、恋愛成就・夫婦和合・良縁祈願の御利益があるという。特に栲幡千々姫命は織物の神であることから、繊維産業の盛んな泉大津市では、厚い信仰を集めている。

撮影:泉大津カルチャー編集部
撮影:泉大津カルチャー編集部

今なお生き続ける 倒木した樹齢600年の御神木

神社には、およそ13,000㎡の社が広がっており、なかでも目を引くのがクスノキの大木だろう。高さ20~33mに達するクスノキ12本を「泉穴師神社のクスノキ大木群」として、市の天然記念物に指定されている。

境内から森に入り奥に進んでいくと、異様な光景が。

撮影:泉大津カルチャー編集部

大きな木が倒れ、地面にはっているはずの根が垂直に立っている。

撮影:泉大津カルチャー編集部

そこにあるのは、根こそぎ倒れたクスノキだ。根の部分は6mを超えるほどの高さだろうか。このような大きく広く根を張っている木がなぜ倒れているのか。

根っこの裏側 撮影:泉大津カルチャー編集部

2018年、台風21号が、25年ぶりに「非常に強い」勢力で日本に上陸し、特に近畿地方を中心に大きな被害を出した。神社も被害を受け、樹齢600年のクスノキが倒れた。

一度は撤去することも検討されたが、「生まれるずっと昔からこの神社を見守ってくださっているこの御神木を、本当に撤去して良いものなのか?」という疑問がうまれ、地域の関係者や市長を交えて議論を重ねた結果、これから起こるであろう自然災害の教訓にできればと考え、このままの状態を自然災害遺産として残すことを決めたという。当時、整備費や維持費用はクラウドファンディングで集めた。

倒木直後のご神木 (泉穴師神社ホームページより)


現在、倒れたご神木は、横たわった幹から天に芽を伸ばして力強く生き続けている。

幹から新しい芽が生えている 撮影:泉大津カルチャー編集部

全国でも珍しい「2つ並んだ鳥居」 

泉穴師神社の見どころは他にもある。
まずお参りの際に目に入るのは、境内の拝殿前に並んでいる2基の鳥居だ。これは、本殿に祭られている夫婦2柱の神に1基ずつ備え付けられたものと考えられていて、全国的にも珍しいものだ。

撮影:泉大津カルチャー編集部

境内の本殿・春日社・住吉社の3社が国指定重要文化財に指定されており、建築的にも興味深い。本殿は慶長7年(1602年)に豊臣秀頼が命じて再建されたもので、細部の手法は桃山時代の特徴を表している。また、二神併座という祭祀形態に由来する連結社殿の形式をとっている。外観上の特徴は、両脇に階(きざはし:階段のようなもの)を据え、屋根に千鳥破風(ちどりはふ)を双置していることだ。

泉穴師神社ホームページより

国指定重要文化財に指定された80躯の木造神像

神社は83躯の神像を所有しており、うち80躯が重要文化財に指定されている。ほとんどが平安時代後期から鎌倉時代初頭に造られたもので、この時期の神像がこれほどまとまって残されている例は極めて希少だという。多くの像に赤や緑を主体とした彩色文様が施されており、製作当初は彩り鮮やかな姿であったことがわかる。特に、天忍穂耳尊・栲幡千々姫命の2躯は素晴らしい。

泉穴師神社ホームページより

天忍穂耳尊(あめのおしほみみのみこと)

木造(ヒノキ)・割剥造・彩色
【時代】平安時代
【形状】
壮年相 口髭・あご髭をあらわす
両手を袖の内で拱手(きょうしゅ)し、坐す
【服装】
巾子冠(こじかん)を被り、袍(ほう)を着し石帯(せきたい)をしめる
【法量】
像高 57.6cm

頭体部を一材でつくり出し、これを正中で割り、像底から内刳(うちぐり)のうえ、はぎ合わせる。うるしを全表面に塗り、彩色・切金を施す。肉身は肌色、髪は黒、眉・目・口ひげ・あごひげは墨描き。唇は赤。
衣装は非常に丁寧で美しい文様が描かれている。袍の地模様は茶と二重斜格子に四つ菱切金文(よつびしきりかねもん)に赤の団花文を散らしている。袍の合わせ口と袖口表は、赤・茶・緑地帯に二重切金線と菱繫変わり輪違切金文で、裏は緑・赤地に菱切金の連点文が描かれる。

泉穴師神社ホームページより

栲幡千々姫命(たくはたちちひめのみこと)

木造(ヒノキ)・割剥造・彩色
【時代】平安時代
【形状】
髪は頭頂で結び、十四房状にして額あるいは肩下がりまで垂らす
【服装】
大袖衣・鰭袖(はたそで)・領巾(ひれ)を着し袴をはき、腰帯を締める。両手を袖の内で拱手(きょうしゅ)し、坐す。
【法量】
像高 51.5cm

頭体部を一材でつくり出し、これを正中で割り、像底から内刳(うちぐり)のうえ、はぎ合わせる。うるしを全表面に塗り、彩色・切金を施す。肉身は肌色、髪は黒、眉・目は墨描き。唇は赤。
大袖衣の地模様は茶と二重斜格子に四つ菱切金文に白の団花文を散らしている。袖部は朱と七宝繫切金文(しっぽうつなぎきりかねもん)の地に緑の団花散らしで袖口表は、赤・茶地に菱切金の連点文と鱗繋(うろこつなぎ)の銀切金文帯、裏は緑・赤地に白小丸文散らし。

これらの神像は普段みることはできないが、イベントで展示されることもある。

由緒ある泉穴師神社。ここでは紹介しきれないほどのみどころがまだまだあるので、是非足を運んで、泉大津の歴史を感じてもらいたい。

撮影:泉大津カルチャー編集部
撮影:泉大津カルチャー編集部

【泉穴師神社】
アクセス:大阪府泉大津市豊中町1丁目1番1号
     車の場合 国道26号線、阪和豊中交差点を(堺方面から来た場合)右折、2つ目の信号を左折すぐ電車
     徒歩の場合 南海本線泉大津駅下車、東へ約1.5km、JR和泉府中駅下車、西へ約1km
電話:TEL 0725-32-2610